正月と並び、私たちの生活で重要な行事の「お盆」。では、「お盆」と言うのはなぜでしょう?
この記事では、お盆の語源となった【盂蘭盆会(うらぼんえ)】の意味について解説します。
また、盂蘭盆会の時期や過ごし方や、各地の風習についても紹介しています。
この記事を読めば、盂蘭盆会の全てが分かりますよ!
お盆の語源「盂蘭盆会(うらぼんえ)」の由来
そもそも、なぜ「お盆」というのでしょう。
語源を紐解いていくと、実は仏教の起源と伝来の歴史が大きく影響しているのです。
- サンスクリット語の音訳語
- お釈迦様の教え
- 「祖霊信仰」との融合
それでは順番に見ていきましょう。
サンスクリット語「ウランバナ(逆さ吊り)」の音訳語
お盆の語源は、古代インドのサンスクリット語「ウランバナ」を音訳した「盂蘭盆会」、と言われています。
サンスクリット語は本来書き表す文字がなく、長い間口伝されてきました。
ゆえに先人は、「ウランバナ」という言葉の「音」を、「うらぼんえ」という文字で表したのです。確かに、音の響きが似ていますね。
この「ウランバナ」、実は「逆さ吊り」という、ちょっと怖い意味の言葉です。
お盆と一体どういった関係があるのでしょうか。
逆さ吊りの母を救ったお釈迦様の教え
その昔、仏教の祖であるお釈迦様には多くの弟子がいました。
中でも代表的な「十大弟子」の一人である目連は、厳しい修行の末、強力な神通力を得ます。
ある日のこと。目連はその神通力で、亡くなった母が餓鬼道で逆さ吊りにされ苦しんでいるのを見つけます。
母を助けたい一心の目連はいろいろと試みますが、どれもうまくいきません。
どうしても諦めきれない目連は、お釈迦様へ相談します。すると、
「夏の修業を終える7月15日に、全ての修行僧へ食べ物や寝床などの施しをし、供養をしなさい。その功徳で母を救えるでしょう」
という教えを授かります。
目連が釈迦の教えを忠実に実践すると、母は救われ極楽浄土へと導かれていきました。
このお釈迦様の教えが基となり、毎年7月15日に盂蘭盆会が行われるようになったのです。
日本では「祖霊信仰」と融合して広まった
もともとの盂蘭盆会は、「先祖の霊を救う」ための供養行事でした。
では、「先祖を弔う」日本の盂蘭盆会の風習は、どのようにして形成されたのでしょう。
日本には紀元前から、先祖を敬い感謝し、子孫の幸せを願う「祖霊信仰」の風習が根付いていました。
一方、仏教が日本に伝わったのは6世紀から7世紀ごろ。盂蘭盆会の風習もこの頃日本に入ります。
伝来当初の盂蘭盆会は、「死者供養の宮中行事」という特別なものでした。
やがて仏教文化と共に世間へ広がる過程で、生活に根付く「祖霊信仰」と融合します。
その結果、「先祖を弔う仏教行事」として一般民衆へと浸透していったのです。
盂蘭盆会(うらぼんえ)はいつ?
日本では、明治時代に旧暦(太陰太陽暦)から新暦(太陽暦)へ暦が切り替わりました。その影響から、地域によって時期が異なります。
当時、明治政府の影響力が大きかった東京などの都市部や周辺地域は7月。
その他の地域は、旧暦で成り立った生活を変えることが難しかったため、8月のままとなっています。
全国の盂蘭盆会の時期を地図で表しましたので、是非参考にしてください。
【解説付】一目でわかる!全国盂蘭盆会MAP
時期 | 地域 |
7月13日 ~7月16日 |
北海道函館市(旧市街地) 東京都(一部地域を除く) 神奈川県の一部、静岡県静岡市 石川県金沢市(旧市街地) |
8月13日 ~8月16日 |
全国 |
旧暦7月13日 ~7月15日 |
沖縄県 |
東京などて新暦の7月13日から7月16日に行うお盆は、「7月盆」とも言います。
一方、全国的に多い8月13日~8月16日のお盆は、別名「月遅れ盆」です。
上記はどちらも、今私たちが使用している暦で7月もしくは8月が時期となりますが、沖縄だけは異なります。
独自の文化を残す沖縄は、現在でも様々な行事や神事を旧暦で行っています。
旧暦でお盆は7月13日~15日となり、新暦に置き換えるとだいたい8月から9月頃になるのです。
旧暦は月の満ち欠けを基にしており、1か月は29日か30日で1年はおおよそ354日。
さらに太陽の動き、つまり季節と暦を合わせるため、「うるう月」を約3年に1回設けます。
うるう月のある年は、1年が13か月になります。
よって毎年時期が異なり、新暦に置き換えると幅が生まれるのです。
一般的な盂蘭盆会(うらぼんえ)の風習
仏教行事である盂蘭盆会。風習は地域や宗派などにより様々ありますが、一般的には、
- 仏壇とお墓の準備
- 迎え火で先祖霊を迎える
- 送り火で先祖霊を送り出す
とされています。ではいつ、どのように行えばいいのかを、詳しくご説明しましょう。
仏壇とお墓を清め整える
お盆月の1日は「釜蓋朔日(かまぶたついたち)」と呼ばれます。
お盆はこの日から始まるため、準備はお盆月の1日から行いましょう。
まずはお墓掃除をし、仏壇、仏具をきれいに掃除します。
次は7日、「棚幡(たなばた)」とも呼ばれる日です。
ご先祖様をお迎えするため、仏壇に「精霊棚(しょうりょうだな)」をセットします。
精霊棚は小机の上に真菰(まこも)を敷き、位牌や香炉、鈴などを置くのが一般的な形です。
季節の花や果物、お菓子などもお供えしましょう。
東日本では、キュウリとナスで作った精霊馬や精霊牛を供える風習もあります。
迎え火を焚き先祖の霊をお迎えする
13日にはまずはお墓参りをしましょう。
お墓参りの時間に特別な決まりはありません。ただし、迎え火を焚くことから、午後3時から5時の間が多いようです。
夕方には、玄関先や庭でおがらを燃やして「迎え火」を焚き、ご先祖様をお迎えします。
おがらとは、麻の皮を剥ぎ、幹の部分を乾燥させたものです。「麻幹(あさがら)」とも呼ばれています。
麻は燃やすと空気を浄化する力があるといわれ、古来から神事には欠かせないアイテムです。
おがらはお盆近くなると、スーパーや花屋さんで購入することが出来ますよ。
迎え火には、ご先祖様が迷子にならないための目印の意味があります。
ただし現代では火をたくことが難しい場合もあり、LEDなど電気式の盆提灯を使うことも多いようです。
送り火を焚き先祖の霊を送り出す
16日の夕方に再びおがらを燃やして「送り火」を焚き、ご先祖様を送り出します。迎え火と同じ場所で焚きましょう。
午前中はご先祖様の霊がまだ自宅にいるとされるため、夕方少し暗くなってから行うのが一般的です。
送り火も迎え火と同様、ご先祖様が迷子にならないように道を明かりで照らす、という意味があります。
仏前のお盆飾りは、ご先祖様をお見送りした16日、もしくは翌日の17日に全て片付けを行いましょう。
精霊馬などのお飾りはお焚き上げをするのが習わしですが、迎え火や送り火と同様に、火をたくのが難しい場合がありますね。
その際は、感謝をこめて手を合わせてから塩で清め、家庭ごみに出して処分するようにしましょう。
地方独特な盂蘭盆会(うらぼんえ)の風習
日本各地には、地方独特な盂蘭盆会の風習が数多くあります。
京都五山の送り火はその代表的なもので、日本だけでなく世界的にも有名です。
皆さんがお住まいの地にも独自の風習があるかと思いますが、ここでは、
- 九州地方|精霊流し
- 沖縄|エイサー
- 小豆島|川めし
- 栃木県|釜の蓋まんじゅう
についてご紹介をします。
故人の魂を弔い送る「精霊流し」|九州
長崎県の各地や熊本県の一部などの九州地方で、毎年8月15日に行われます。
過去には歌やドラマ、映画の題材にもなった、国内でも有名な風習です。
初盆を迎えた遺族らは、大小さまざまな「精霊船」を作ります。
精霊船の基本構造は「竹、板、わら」とシンプルなもの。
ですが、船首に家紋を入れたり提灯で飾り付けたり、故人の趣向も取り入れ、細部までこだわって作られます。
そこに故人の霊を乗せ、「流し場」と言われる終着点まで船をひきながら練り歩きます。
こうして故人の霊を弔い極楽浄土へ送り出すのです。
「チャンコンチャンコン」という鐘の音と、「ドーイ、ドーイ」という掛け声とともに、夜遅くまで盛大に行われます。
伝統芸能の舞「エイサー」|沖縄
沖縄で旧暦の7月15日に行われる、伝統の念仏踊りです。
家々の無病息災と繁栄を祈り、先祖の霊供養として、若者が集落内を踊りながら練り歩いたのが発祥です。
「エイサー」という名の由来は諸説ありますが、演舞中のお囃子からきているという説もあります。
また踊りの形態はいくつかありますが、現在は締太鼓を中心とした「太鼓エイサー」が主流です。
踊り手が大小さまざまな太鼓を持ち、自身で鳴らしながら勇ましく踊るのが、太鼓エイサーです。
地元の人は旧盆が近づくと、学校や仕事帰りに公民館などに集まり、熱心にエイサーの練習をします。
沖縄各地でエイサーは行われますが、旧盆の翌週末には「沖縄全島エイサー祭り」が盛大に開催され、島は一番の熱気に包まれます。
無縁仏の供養「川めし」|小豆島
島内を流れる別所川流域で行われる風習で、町の無形民俗文化財です。
8月14日の早朝。流域周辺の家族が河原で五目飯を焚き、柿の葉に盛り付けて川辺の岩にお供えします。
柿の葉の枚数は決められており、通常は12枚、うるう年は13枚です。
無縁仏に手を合わせた後、自分たちも河原で川めしを食べます。川めしを食べると、その年は病気にならない、という言い伝えもあります。
なお、食べ残しは持ち帰りをしないのが習わしです。
無縁仏の霊を供養する行事であることから、別名「餓鬼めし」とも呼ばれています。
時代と共に規模は小さくなっているようですが、100年以上続く伝統的なお盆の風習です。
釜蓋朔日のお供え「釜の蓋まんじゅう」|栃木
栃木県北部地域で、8月1日に炭酸まんじゅうを作りお供えする風習です。
8月1日は、閻魔大王が地獄(あの世)の釜の蓋を開ける日。先祖霊はこの日から13日間かけて戻ってくるとされています。
先祖を迎えるため、釜の蓋が開いたことを喜び、笹の葉の上に炭酸まんじゅうをお供えするのです。
お供えする数は、ご先祖様が1日ひとつずつ食べるように13個、という言い伝えもあります。
また、お供えした後は、自分たちも炭酸まんじゅうをいただくのが習わしです。
この時期は、和菓子店やスーパーだけでなく、コンビニでも釜の蓋まんじゅうが売られるようになります。
鬼が来る?海外の盂蘭盆会(うらぼんえ)
日本と同じく、東南アジア諸国にもその昔、中国から仏教が伝来しました。
そして各国でも、自国に古くからある生活風習や文化と融合し、仏教は独自の進化を遂げていきます。
盂蘭盆会の風習も同様で、国によって考え方、やり方は様々です。
中でもベトナムと台湾の盂蘭盆会は有名ですが、日本とは違った特徴があります。
どうやら、あの世からやってくるのは先祖の霊ではないとか…。一体何がやってくるのでしょう。
ブーラン祭|ベトナム
ベトナムで旧暦7月は「凶の月」と言われ、1年の中で一番の厄月とされています。
また道教の影響から、霊界との扉が開く「幽霊の月」とも言われています。
ゆえにベトナムでは、旧暦の7月はとにかく不運な月、とされているのです。
盂蘭盆会は旧暦7月14日~15日で、先祖や無縁仏の霊を供養します。
供養の仕方は、お墓参りやお供え物をするなど、日本とほぼ同じ。
ですが、お金に見立てた紙や衣類もお供えし、燃やして供養するのが特徴です。
これは、鬼門からやってきた飢えた「鬼」を助け、悪さをさせないため、と言われています。
中元祭|台湾
台湾の盂蘭盆会も、道教の教えと融合して発展しました。
台湾では旧暦7月を「鬼月(きづき)」と呼び、鬼門が開き鬼(幽霊)がこの世にやってくると考えられています。
ここでもやはり、やってくるのは「鬼」!
この鬼が人間に危害をあたえないよう、街頭に果物とお線香をお供えし、紙で作った服やお金を燃やすのが慣わしです。
お金をお供えするのは、鬼があの世で困らないために、と言われています。
また、旧暦の7月15日は鬼門が完全に開く鬼節のピークとなるため、街中のいたるところでこの光景が見られます。
「中元祭」という名は道教に由来しますが、台湾では一年で最も重要な節句行事です。
この中元祭は台湾の他に、香港やシンガポールなどでも同様に行われています。
故人を偲び己の生に感謝をし、人生をより豊かなものへ
お盆の語源【盂蘭盆会(うらぼんえ)】は、お釈迦様の教えが由来となっていました。
他にも沢山の教えを残したお釈迦様ですが、その全ての根底には「感謝」があります。
私たちは、先祖や家族、その他にも沢山の人々の力を借りて生きていますね。
故人を弔うことは、自分の生に感謝をし、これからの生き方を考える機会へと繋がります。
是非、盂蘭盆会では故人を偲びつつ、感謝の気持ちを持って過ごしてみましょう。
また「盂蘭盆会」は、俳句の世界では「初秋」の季語です。暑いながらも、耳をすませば秋の虫が鳴き始め、次第に空が高くなる頃です。
故人を弔いながら、季節の微かなうつろいにもゆっくりと目を向けてみてください。
日常の忙しさでつい忘れがちな、「心のゆとり」に気づくでしょう。
それらは全て、あなたの人生をより豊かにする礎となっていきますよ。